惹き戻す力、惹き付ける力、惹き続ける力

ゴールデンウィークが終わったが緊急事態宣言延期でまだまだ日本中で外出自粛の日々が続いている。
本当にこんな事態になると、誰が想像できただろう。
宣言解除とされていた5月の6日をひとつの区切りと考えていた企業や飲食店も多かっただろうが、更にデッドラインを先延ばしされるという過酷な現実に、張り詰めていたものが切れてしまった人もいるのではないか。
相手はウイルスで、誰かのせいにしたとこれで何にもならない。やり場のない怒りや出口が見えない不安や焦燥感をどこにぶつけたらいいのかと鬱々としている人もいるのではと思う。

私自身、仕事はお陰様で忙しいが、収入そのものは半減とまでは行かないがかなり厳しい状況に追い込まれている。それでも職を失った人もいる中、まだまだ恵まれている方だ。
そう思いながら、今日も家で過ごしている。

テレビが本当につまらないので、今日も昼ごはんを食べたあとは、ひたすら田原俊彦ライブのBluRayを見て過ごしている。昨年4月21日に開催されたNHKホールでの、平成ラストライブだ。

一緒に暮らす家族からすれば、また観てるの?と言われそうだが、これが何より自分の心を安定させてくれるのだから仕方ない。
皆して家にいるので、リビングのテレビを独占することはできず、PCを立ち上げてBluetoothイヤホンで、音声を聴きながら視聴しているのだが、お客さんの歓声もテレビで観るより大きく感じられるし、画面が小さいこと以外不満はない。

時折カメラがトシちゃんの背中越しに会場を写す時がある。三階最後列までぎっしりの観客、色とりどりのペンライト…これがあの日、トシちゃんがステージの上から見ていた光景なんだと思うと胸が熱くなる。

聖地NHKホールでのライブが決定したと発表があったのは前年の中野サンプラザでのライブの時だった。
その時のトシちゃんの誇らしい表情は忘れられない。

NHKホールはエンターテイナー田原俊彦として活動を始めたいわば、スタート地点だ。
この場所で単独ライブを開催できることの意味は大きいし、大きな組織がバックについていない環境で活動する人にとっては、トシちゃんクラスの知名度を誇る人であっても相当大変なことだったはずだ。

蓋を開ければ、ライブチケットは完売。
遠方から万障繰り合わせて駆けつけたファンもいれば、ずっと昔にコンサートに一緒に行ったことがあるかつての仲間に声をかけたファンもいた。
ファンクラブの先行発売の段階でほぼ埋まり、一般発売された段階で3階席しか手に入らないという状態だったと聞いた。3月1日にあさイチに出演し、それを見た人が検索してチケットを購入しようとした際には既に完売した後だったらしい。


トシちゃんが凄いのは、ジャニーズ事務所という1番力がある事務所と言っても過言ではない場所から独立し、一度はテレビにほぼ出ない状況になり、会場のキャパシティも小さなライブハウス、東名阪の3ヶ所のみという時期があっても決してステージを途切れずにライブ活動を続けてきたことだ。

独立後はバッシングもあり、厳しい状況が続いていたことだろう。

頂点を極めた人だ。しかもかなり高い山の頂点からの景色も知っている人だ。
その時の景色とはあまりに異なる現実が目の前に広がっていたら、プライドがズタズタになり、受け入れられずに自暴自棄になっても不思議ではない。
でもトシちゃんはライブ会場が小さくなろうと、空席があろうと、自分のやるべきことを目の前にお客さんがいる限りやるだけというスタンスに徹してきた。
厳しい集客状況の報告を受けても
「自分を信じて、やるべき事をやっていれば、かならず戻ってきてくれる…」と答える人だ。
そして、時間はかかったが、その言葉を見事、現実にした。

35周年の頃から目に見えて観客動員数や年間ライブ本数をV字回復させてきた印象があるが、迎えた40周年でまたNHKホールでライブを開催できるところまでに本当に這い上がって来たのだ。

こんな軌跡を描ける人が他にいるだろうか。


ここ何年もCDを出せばデイリーではベストテン入り、ウィークリーでは30位以内は安定して入っており、これも一時期に比べれば格段に結果を出しているわけだが、だからといって世間全体に認知させる程の大ヒットになっているとは言えないと思う。
今は昔と同じく指標で物事を語れないが、それでも例えばDAPUMPのUSAのように、一定の知名度がある楽曲が登場したりしている。
田原俊彦にそこまでの認知度の爆発的大ヒット曲があったかと言えば答えは否だ。そうなればいいと心から思っているし、これからまだまだ可能性はあると思っているが。

話を戻すが、そこまで抜群の大ヒットを飛ばしたということがないにもかかわらず、年々ライブへの動員数は増加し、そしてファンクラブの会員数まで増える一方なのは、何故なのか。


トシちゃんがファンを引き戻している理由、それは
田原俊彦に必然にしろ偶然にしろ触れた機会があったから」だと思う。


テレビ出演にしろ、たまたま家の近くで開催されたイベントやライブにしろ、たまたま目に入ったyoutubeにしろ、トシちゃんってこんなに凄かったんだ、トシちゃん頑張ってるな…と感じた人達がいて、トシちゃんのライブ会場に足を運んでくれた…その翌年はまた別の人を誘ってリピートしてくれた…
そうやって、じわじわと巻き戻してきた結果が今に繋がっているのだと思う。

そして、今年は行ってみようという人がいたとして、こうして毎年かならずライブを開催してくれて来たことも大きいのではないだろうか。ライブを見てみたいなと思っても、今はもうライブ活動していないという人も多い。だけどトシちゃんはライブ活動してくれてる上に、ライブを見に行けば、期待を裏切らない。昔と同じように歌い、踊りまくり、年齢を重ねていることを忘れさせるようなステージを魅せてくれる。
昔は良かったのにね~と思わせないのだ。


触れる機会があったからと先程書いたが、普通はどんなに触れようが、懐かしいね~で終わり、引き戻して再びファンになることなど、ほぼないことだと思う。
しかし、そうさせてしまうのが、田原俊彦田原俊彦たる所以なのだ。

これはある意味、大ヒット曲がでたなどの分かりやすいきっかけがある場合より、凄いことなのかもしれない。
大ヒットをきっかけにするような話題性に乗っかって来る人は一過性だけど、トシちゃんに戻ってきた人はより熱心に応援していく傾向が強い。



それから、もう1つ。
このライブのMCでも男性の観客が増加していることにトシちゃんが触れている。
田原俊彦ライブといえば観客は女性ばかりと思う人が多いのではないだろうか。
確かに1980年代はそうだったと思うが、今は違う。
男性がいても特に目立つわけでもないし、地方では3~4割が男性だったりする会場もある。
同性のファンの増加が40周年を迎える今になって顕著になってきていることは、とても喜ばしいし、何よりトシちゃんが嬉しいだろう。
同性が同性のスターを応援するのは、生き様や姿勢に感銘を受けるからということもあるのではないか。
元々大好きだったが、ライブ会場に行くのは勇気が要ったという人もいるのかもしれない。


いずれにしろ40周年を迎えた今、トシちゃんには、ずっと離れずに応援してきてくれたファン、きっかけは様々だが再びファンに復活したという人たち、新たに魅力に気づき今になってファンになった人たちがいる。

そこまでの経緯がどうであれ、あの日、NHKホールに集い、あのステージを目にできた人は本当に幸せだったと思う。何がどう幸せか、それはこのライブを観た人ならきっと分かる。DVDでも十分伝わる事だから、まだみていない人がいたらぜひご購入をオススメする。
本当はこういうステージをテレビで見せてもらいたいものだが。
そして前回も書いたが、youtube公式チャンネルで、一部の楽曲でいいから公開してくれたら観たい人は沢山いると思うのだが。



収録されていないが、トシちゃんはあの日のライブ、アンコール後にマイケル・ジャクソンメドレーを魅せてくれた。
素晴らしかったが、本人としては思うように動かなかった箇所があったのだろうか。
ステージを蹴って悔しがっていた姿が印象的だった。
齢59にして尚、この人はまだまだ進化しようとしている。
年齢のせいにせず、さらに高みを目指そうとしている姿がそこにはあった。
50周年なんて無理かも…なんて軽口を叩きながら、まだまだこの人は先を見ている。

前人未到の領域で、田原俊彦はまだまだ輝きつづけるはずだ。